初心とは何ぞや? 初心とは何ぞや? この問いに答えるため、自分の『初心』を振り返ってみる。 つまり、私自身が、創作を始めた『きっかけ』である。 小説を書き始めた時のことを思い返してみると、私の記憶に強く印象付けられているも のが、一つだけある。 それは、映画『ネバーエンディングストーリー』(*1)だ。 と、言っても、映画の内容ではない。 いや、映画は良かった。名作だと思う。 第一作は原作者と映画スタッフがもめて、結構大変だったようだし、テレビドラマ版は ファンとしては黒歴史のようであるが…。 ただ、ここで言っておきたいのは、私の創作人生(?)にとって、影響を感じるのは、 映画の内容ではないということ。 では、何か。 タイトルだ。 映画『ネバーエンディングストーリー』。 原作は、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』。 直訳すると「終わらない物語」という解釈もできるだろう。 この「終わらない」というところが、大変に印象深い。 私は少年時代、それこそ、八〇年代や九〇年代のテレビアニメや特撮を見ていた、物心 ついて間もなくのころから、番組の『最終回』というのが気に入らなかった。 なぜ終わるのか。 面白いのに、なぜもっと続けてくれないのか。 と、不満を抱いていた。 そんなとき、映画『ネバーエンディングストーリー』を見た。 そして、なんとはなしに、タイトルに興味を持った。いや、もしかしたら、私の映画の 師と私淑する、淀川長治先生(*2)が原作の名を口になされたのかもしれない。 はてしない物語。 終わらない物語。 衝撃だった。 そのときである。 世の中の物語が終わってしまうなら、終わらない物語を自分で書けばいいんじゃないだ ろうか…。 無謀である。 無策である。 無知である。 しかし、私にとって、それは希望だった。 現実世界は辛く、悲しく、怖い。 想像の世界は、せめて、楽しく、明るく、優しいものにしたい。 そして、終わってしまう喪失感を無くすため、終わらないものにしたい。 物語の登場人物たちの冒険は、決して物語の内容だけにとどまらない。 たとえば、『指輪物語』(*3)のフロド・バギンズの冒険は、小説『指輪物語』が終わ った後も続いているし、『クトゥルフの呼び声』(*4)から始まる物語の神々は、今この 時も我々を狂気へと誘っている。 それは、漫画家の八木教広氏(*5)の、「たとえ、『エンジェル伝説』というマンガが ここで終わっても、彼らの碧空町での生活はこれからも続いていくのだ」という言葉によ って端的にあらわされている。 また八木氏はこうも言う、「彼らのこれからの生活をそれぞれが思いめぐらす時、そこ に碧空町は存在して、そこで暮らす能天気な住人たちも間違いなくそこに存在するのだ」 (*6)と。 この物語(小説)が終わっても、登場人物たちの生活は世界のどこかで続いている、と いうところが、私にとって、大変に興味深い考え方だった。 そう、一見終わったように見えても、物語は終わっていない。 終わらないのだ。 私にとって『初心』とは、終わらない物語を目指すことである。 この目的を果たすためには、やらなければいけないことがたくさんある。 私は、いまだ未熟であるし、目的を達成できるのはいつのことやらわからない。 しかし、この『初心』を求め続けることは忘れない。 『初心』とは、私にとって、目標であり、戒めでもあるような気がする。 「自分が何のためにそれをやり始めたか」ということでもある。 そう考えると、当たり前のことのようだが、日常に追われて、ついつい忘れてしまうこ ともあると思う。 結局、「初心を忘れない」ということは、しっかりとした自分をもつということなのか もしれない。 たまには、自分がどうして創作を始めたのか、そのきっかけについて考えてみるのもい いだろう。 蛇足ながら、トールキンの死後発表された『終わらざりし物語』というものがあるが、 これは副題も含めると『終わらざりし物語‐ヌーメノールと中つ国の未完の物語』となる ことからもわかるように、「まだ終わってない物語」であり、私の考える「終わらない物 語」とは、厳密に言って異なる。 注 *1:原題「Die unendliche Geschichte」。1984年に西ドイツ・アメリカで制作・公開され た映画。 *2:1909年 - 1998年。長年にわたって「日曜洋画劇場」の解説を務め、「ヨドチョーさん」 「サヨナラおじさん」として親しまれた。 *3:英語題「The Lord of the Rings」。イギリスのJ・R・R・トールキン作のハイ・ファン タジー作品。 *4:アメリカの小説家ハワード・フィリップス・ラヴクラフトが1928年に発表したホラー小 説のタイトル。クトゥルフ神話の代表的な作品。 *5:代表作は『エンジェル伝説』・『CLAYMORE』。引用は『エンジェル伝説』15巻、あと がき。 *6:『エンジェル伝説』15巻、あとがき。