終わらせるということ


Author 鉄 蒼燐


 はばかりながら、小説にはテーマを持たせている。  ややこしくして、恐縮であるが、一個の作品としてのテーマではなく、自分が創作する 時のテーマというやつである。  既に『初心忘れるべからず?』で述べたように、私が創作を始めるきっかけとなったの は、「終わらない物語を作りたい」という願望だった。  私は物語を終わらせないようにしようと考えた。  物語とは事件である。  ある事件が起こり、それを収拾するために、主人公やその仲間たちが奔走する。  その騒動を描くのが物語であるし、そうでなければ、あえて語る必要はないのだ。  超人ロック(*1)が宇宙を救った話を読みたいと思う人は多いだろうが、誰も「ロック がトイレに行ったよ」などというつぶやきは欲しくないのである。  しかし私は、物語を終わらせないために、あえて、この『つぶやき』を試みた。  無論、上手くはかない。  なにしろ日常的な情報過ぎて、単発で終わってしまうのだ。  一方で、気が付いた。  日常日常というが、全く何事もなく過ぎ去っていく日常など、そもそも有り得ない。  普通が、実際は『普通ではない』のと同じだ。  人間が生きている以上、毎日、何かが起こっている。  その『ある日のヒーロー』を描きたい。  無論、『事件に立ち向かうヒーロー』も描きたい。  そして、両方を組み合わせることによって、『終わらない物語』にしたい。  そして、現在も四苦八苦しているというわけだ。  私を四苦八苦させるもう一つの要因がある。  アイデアの問題だ。  日常生活の中で、または漫画や映画を見た中で、様々なアイデアが生まれる。  それ自体は喜ぶべきことだ。  しかしながら、一つの作品を書こうとして、今まさに執筆の途中という時も、次々にア イデアが浮かぶ。  一応、現在進行形の作品に取り込もうとは思うが、どうしても、その作品とはかみ合わ ない部分がある。  そのアイデアをメモに取るが、今度は、今まで書いていたモノより、新しく思いついた モノが面白くなって、そちらを優先させてしまう。  結果、いくつもの作品を、未完のまま放置するという悪循環。  困った。  と、いうとき、苦肉の策として考えたのが、『終わらせる』ことだった。  それまでの私の頭の中には、長編小説しかなかったのだ。  自分の書く小説は長編しかない、と決めていたのだ。  だから、次々に湧くアイデアのスピードに、手が追いつかず、結局、何がなんだか分か らなくなって、一つも完結せずに辞めてしまっていた。  私が長編しか念頭に置かなかったのは、『終わらない』ためには、長くすることだと思 い込んでいたことが理由にある。  しかし、たとえ、一つ一つのエピソードが短くても、同じ世界、同じ時代、同じ登場人 物による物語なら、つながっていると言える。  要するに、連作短編の形式にして、総合的に『終わらな』ければいい。  という、当たり前のことに気が付くまで、およそ10年かかった。  まったく、思い込みとは恐ろしいものである。  というわけで、私は現在、創作に当たって一つのテーマを設けている。  それは『終わらせる』こと。  どんなに短くても、ちょっと無理のある内容であっても、必ず終わらせる。  結末を描く。  この方法を取る理由には、無論、アイデアを無駄にしたくない、という気持ちもあるの だが、同時に、「せっかく書いているんだから、終わらせて、次に生かさないと」という 気持ちも強い。  将来的にはシェアード・ワールド(*2)を構築したいと思っているが、それは、先のこ とだ。  どうなるかは分からない。 注 *1:聖悠紀のSF漫画『超人ロック』の主人公。謎多き超能力者。 *2:複数の作者が同一の世界設定や登場人物を共有して創作すること。または、そうして創   作された作品群。『クトゥルフ神話』が有名。


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