万物は不思議だ。 普段見慣れている、ありふれたものであっても、少し視点を変えて見るだけで、新たな発見を与え てくれる。 まず、目に付くのはなだらかな曲線。それがこれの大部分を占めている。実に美しい曲線だ。 その丸みは、ひたすらに柔らかく、優しい。 曲線を目で追えば、ゆっくりと半円を描き、唐突にくびれを作る。その唐突ささえ、計算されつく した優美さを感じさせる。 くびれからつながるのは、太くてしっかりとした円筒。その先にはきらきらと煌めく銀色の表皮に 覆われた突起。 透き通った外側から中を覗けば黒い二本の、細長い針金のようなものが見える。その二本は根本を ほぼ同一の場所から生じながらも、上へ行くに従って離れていく。 一度は離れ離れになった針金だが、その上端には、くるりと一回だけカールしたワイヤーが付けら れていて、針金同士をつないでいる。 ワイヤーによって結ばれた針金はまるで、手をつなぎながらも互いから目を反らしている初心な恋 人同士のようにも見える。 美しく閉じられた空間の中で、互いに手を取り合い、白熱する針金同士。 それはなんと羨ましい光景だろうか……。 「おい、どうした?」 太くて低い声が耳を打つ。その方向を見ると、廊下に兄が立って、こちらを見ている。顔一杯に不 審そうな表情。 「ん、ああ、トイレの照明が切れてね……」 私は、一言二言、そんなようなことを言った。 「知ってるよ。LEDに付け替えたんだろう。そっちじゃなくて、替えた電球を持って何をしている のか、ってことだ。捨てないのか?」 そうか。そう言えば、取り替えた後の電球を見ている内に、いろいろと考えてしまった。 「いや、捨てるよ。少し見ていただけさ。あるだろう、そういうこと」 半ば苦し紛れの言い訳だ。この後の兄の反応は分かっている。 「いや、ないね。少なくとも、俺は電球を十五分も見つめたりはしないよ」 万物は不思議だ。 ありふれた電球でさえ、じっと見つめれば様々な発見がある。 晴考雨読 了